Wanon 1本目

 雪の中、少女は遅れてやって来た。
「30分の遅刻だ。」
「うわ、まだ20分くらいかと思ったよ。」
なんて会話をする。
「ハイ。」
と、少女が俺に何かを渡そうとする。見れば$だの¥のプリントの入った覆面、いわゆる銭ゲバマスクと呼ばれるものだ。
「俺は何号だ?」
「う〜ん、一号かな。」
 魔神風車固めだな。
「ねえ、私のこと覚えてる?」
 俺はマスクを被るとベンチから腰を上げた。少女のポケットの中にいたマスクは、雪の中、とても暖かく感じた。
 そして俺は少々不安げな表情でこちらを見ている少女に声をかけた。
「行くぞ、名雪。」
「うん。」
 名雪は明るく応えた。
 少女の名は水瀬名雪。俺のいとこで、俺がこれからやっかいになる家の一人娘だ。
 少女の名は名雪。
 通称「狂犬名雪



 Wanon 一章 翼無き天使



「しまった。」
 名雪と商店街にやって来たが、はぐれてしまった。この町に来るのは初めてではないが、よく知っているということもない。まるで他団体のマットの上に居るような気分だ。
「うぐぅ〜、そこの人、どいて、どいてぇ!!」
 声がした。振り返った刹那、水月に衝撃が走った。何者かのニーリフトが突き刺さったのだ。息がつまり、膝から力が抜けていく。片膝をつき、正面を見ると、まだ幼さの残る顔立ちの少女があわてている光景が映った。しきりに後ろを気にしているところを見ると、追われているのだろう。俺はこのグレートな膝を持つ少女と話をしてみたくなった。さて、ではどうすればこの少女と話ができるだろう。

1.どこかに隠れる。
 ……いや、息を殺していては話せない。

2.一緒に逃げる。
 ……お互い息が切れ話すどころではない。

3.魔神風車固め
 ……これだ。

 俺はすぐさま少女の体を掴み腕をロックした。
 そのまま一気に背中をそらし、彼女の体をアスファルトに叩きつけた。
 周囲の人々が、俺の美しい人間橋に息を呑むのが伝わってくる。
 すると、一人の男が俺にも見て取れる人々をかきわけて現れた。エプロンを着た男。おそらく奴が追手なのだろう。男は俺たちを見るなり進路をこちらに向けた。
「う、うぐぅ〜」
 少女が足をバタつかせるが、俺は絶対の自信を持って固め続ける。
「くそっ、逃げ足の速い奴め。」
 男はそう言うと、もと来た道を引き返していった。
「うぐぅ、酷いよ。」
 技を解くなり、彼女は言った。
「いきなりニーリストを決めておいて言うセリフか?」
 これが奴との再会だ。

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